SSDキャッシュ代わる新技術でNASを高速化させるQtierの実力

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NAS NASにSSDを搭載してパフォーマンスアップ

データやHDDの大容量化が進む一方、SSDの低価格化が進まない状態がここ数年続いていて、大容量のファイルサーバには未だにディスクアクセスのボトルネックになるHDDを搭載しなければならないのが現状です。

CPUの高速化やメモリの大容量化、ネットワークが10Gbpsを超えるネットワークが普及しても、ランダムアクセスに弱いHDDをNASに搭載している限り、いつまでもファイルアクセスの速度が改善されません。

ドライブ数が少なくデータの容量が少ないホームサーバーであれば、ディスクを全てSSDにすることも可能ですが、RAID-6やホットスペアを設定するNASのディスクを全てSSDにするのは、企業と言えどもコストがかかり過ぎです。

SSDキャッシュ代わる新技術でNASを高速化

ハイエンドのNASにはSSDをキャッシュとして設定し、ファイルアクセスを高速化させることのできる製品が複数のメーカーから登場していますが、期待するほどのパフォーマンスがでないのが現状です。

頻繁にアクセスするデータであればSSDキャッシュは有効かもしれませんが、実際にファイルサーバやバックアップ用ストレージに設定しても、体感できる程ディスクアクセスが高速になることはありません。

NASで定評のあるQNAPは、SSDキャッシュに代わるNASのディスクアクセスを高速化させる新しい技術、Qtierを一部の製品に搭載しましたので、どの程度実力があるか検証しました。


Qtierは低コストでNASを高速化させる

Qtierは、大容量でありながら価格が安くディスクアクセスが遅いHDDと、大容量化が難しく低価格化が進まない高速なSSDを組み合わせて、NASのパフォーマンスを改善させるQNAPの新しい技術です。

従来のRAIDも低速なHDDと高速なSSDを組み合わせて同一ボリュームとして利用することができますが、RAIDは速度が遅く容量の少ないディスクに合わせるので意味がありません。

期待していたよりも効果を発揮しないSSDキャッシュに代わり今注目されているのは、高速なSSDと低速なHDDをひとつのストレージとして組み合わせて階層分けするQNAPのQtierです。

Qtierは、一番高速なSSDにデータを書き込んだ後にデータのアクセス状況を判別して、利用頻度の少ないデータを自動的に低速なHDDに移動させる画期的な仕組みです。


Qtierにおすすめなドライブベイの数

Qtierに設定するストレージは必ずしもRAID構成にする必要はありませんが、データロスのリスクを考えるとHDDだけでなく、第一階層となるSSDもRAID構成にするのがおすすめです。

仮に第三階層となるSATA HDDでRAID-1を構成した場合は2本のディスクが必要で、更に第一階層のSSDをRAID-1に設定した場合もディスクを2本必要になるので、最低でも4ドライブが必要になります。

HDDやSSDのホットスペアを各1本用意した場合更に2ドライブ必要で、内蔵ドライブにバックアップを作成する場合は更に1本以上のドライブベイを消費することになります。

こちらの画像は第一階層に高速なSSDを1本設定し、第三階層に低速な10TBのHDD5本で30GBのRAID-6を構築、更にホットスペアに1本のHDDを設定していますが、これだけでも7ドライブを利用しています。

Qtierを設定したストレージ全体をバックアップするなら、HDDで構成したRAIDの容量だけでなく追加したSSDの容量を合わせて、バックアップすることを忘れてはいけません。


Qtierに設定するSSDは512GB以上がおすすめ

今回Qtierを設定したTS-873にはSATA対応のM.2 SSDを2本搭載可能ですが、手元にあるIntel製NVMe SSDは認識しませんでしたので、2.5インチSSDをドライブベイに装着しました。

Qtierを設定するにはNASがQtierに対応している機種なのはもちろん、搭載するストレージの容量が144GBよりも大きい物でなければならないので、新規にSSDを購入する方は注意してください。

Qtierに使用した2.5インチSSDは、Intel 730Seriesの480GBディスクで、ベンチマークの他に10TB以上のストレージバックアップや、通常のファイルサーバとして設定し利用してみました。

ファイルサーバに使うNASなら512GB程度のSSDでも良いのですが、大容量のファイルをバックアップするストレージにQtierに使用するなら、1TB以上のSSDがおすすめです。

Qtierの検証結果

ここからはQtierを設定する前と後のパフォーマンスの違いについて紹介しますが、ハードウェア性能がボトルネックにならないようにメモリを20GBに増設し、NASとクライアントの接続はSFP+で接続しました。


大容量データバックアップの時間短縮

Qtierを利用しないNASに12TBのデータをバックアップを実行したところスループットが5,151MB/分なのに対し、437GBのSSDをシングルで追加しQtierを有効にした後のスループットは5,535MB/分になりました。

ファイルサーバのデータは日々変化するものなので正確な検証にはなりませんが、同じデータ量のバックアップに換算してみると4.5時間程度の時間短縮という結果となりました。

バックアップ開始直後は通常よりも高いスループットが出ていたものの、SSDの空き容量がなくなると第3階層のHDDへ書き込みが始まりますので、SSDの容量が少ないQtierでは大幅な短縮とはなりません。

今回のQtier検証で使用したSSDの容量は437GBと比較的少ない容量ですが、1TB以上のSSDを搭載すれば更なる時間短縮が見込めますので、大容量のデータバックアップをするなら1TB以上のSSDをおすすめします。


ファイル共有で効果あり

72時間を越える連続的なデータの書き込みがあるバックアップには、2TB以上の大容量なSSDを搭載しなければ効果が見込めないQtierですが、ファイル共有を行うサーバでは体感で感じる程の効果がありました。

Qtierは、オンデマンドやスケジュール設定でSSDにあるデータをHDDに移動して第一階層の空き容量を増やすことができるので、512GBを越える高価なSSDを搭載する必要はありません。

頻繁にアクセスするデータは第一階層に保存されるので、256GBだと心細い物がありますが、1TB以下のSSDは比較的手が届きやすい価格なので、QNAPのNASでファイル共有をするならQtierがおすすめです。

体感という抽象的な個人の感想よりもベンチマーク結果を乗せた方が説得力がありますが、撮影したスクリーンショットのデータが消失してしまいましので、今回は割愛させていただきます。


QtierはSSDキャッシュと組み合わせると効果的

SSDキャッシュ単体ではNASのディスクアクセスを大幅に向上させることはできませんでしたが、ベンチマークソフトで計測したところQtierと組み合わせることで大幅に数値が改善されました。

下の画像左側はSSDキャッシュやQtierを使用していないWestern DigitalのHDDを搭載したNASのベンチマークの結果で、右は同じNASにQtierを設定して計測した結果です。

Seq Q32T1と4Kの数値は誤差程度の違いしかありませんが、4K Q32T1の書き込みが約4倍、Seqの書き込みが約1.4倍にまで向上したので、数値でみても効果はそれなりに出ています。

そしてこちらの画像が、QtierとSSDキャッシュを組み合わせてから実行したベンチマークの結果で、4K Q32T1の書き込みが約6倍、Seqの書き込みが約8.4倍にまで向上しています。

SSDキャッシュやQtierでSSDを最低でも4本使うことを考えると、個人向けのNASはディスクそのものをSSDにするのをおすすめしますが、ドライブ数の多い製品ならQtierとSSDキャッシュの組み合わせる意味はありそうです。

バックアップは必要不可欠

Qtierの利用関係なくデータを守るためのバックアップはどのNASにも必要不可欠な物ですが、Qtierは複数のディスクやRAIDを組み合わせて動かす仕組みなので、必ずデータバックアップはしてください。

例えばキャッシュで使用するSSDが故障した場合、キャッシュ内のデータが消失するだけで済みますが、Qtierは故障したディスクだけでなく全てのディスクデータが消失する可能性があります。

第三階層のHDDはもちろん、第一階層のSSDもRAID-1以上の構成にすることで、データ消失のリスクが少なくなりますが、使用するディスクの本数が増えたりシステムが複雑になるとデータが消失リスクも当然増えます。

データを安全に保管するために、大容量な内蔵HDDや外付けHDDにデータを複製したり、NAS全体をレプリケーションするなどの仕組みを考えるのが何よりも大切です。

Qtierが使えるおすすめのNAS

NASにアクセスする人数や用途が異なると要件が代わるので、Qtierが使えるからと必ずしも設定する必要はありませんが、Qtierが使える企業向けのNASと家庭向けのNASをいくつかピックアップして紹介します。


企業向けのおすすめNAS

今回の検証で使用したNASはTS-873で、CPUが4コアのAMD Embedded R-Series RX-421NDを搭載した最大メモリが64GBまで増設できる、SMBミドルレンジクラスの製品です。

TS-873にはPCI Expressスロットが2個搭載されているので、拡張ボードを搭載してネットワークを10Gbpsに対応させたり、SATAのSSDよりも高速なNVMe SSDを増設することもできます。

本体価格が10万円代前半にも関わらず8個のドライブベイとSATA M.2 SSD2本を搭載可能で、企業で使用するSMBミドルエンドのNASとしては比較的リーズナブルで導入しやすい製品です。


家庭向けのおすすめNAS

家庭で利用するNASに保存するデータ量や同時アクセスする人数を考えると、Qtier目的にNASを購入するのは趣味に近いものがありますが、ハイエンドにこだわりたい人にはTS-453Bがおすすめです。

SMBミドルエンドのTS-453Bはホームサーバとして使うには少々高価ですが、高速な10GbpsのネットワークやM.2 SSDを増設する拡張カードを搭載することのできるハイエンドなNASです。

バックアップのことを考えると6ドライブタイプがおすすめですが、家庭内で利用するにはあまりにも高価な製品なので、拡張スロットを活用してQtierを利用するのがおすすめです。

スマートフォンによる動画撮影の普及や新4K・8K放送開始に伴い大容量化するデータの管理には、データアクセスが低速なHDDを搭載したNASよりもQtierが使えるQNAPのNASがおすすめです。