OSの仮想化と言えばサーバやパソコンで動作するVMwareやHyper-Vが有名ですが、高機能なハイエンドなNASのなかにはWindows ServerやLinuxなどをバーチャルマシンとして動かすことができる製品もあります。
ホームサーバや企業のファイル共有サーバとして人気が高いSynologyの一部モデルには、NASを仮想OSのホストとして機能させるVirtual Machine Managerのパッケージをインストールすることができます。
デスクトップタイプのハードウェア性能を考えると快適とまでは言えませんが、本場の仮想化技術よりも高機能な上に簡単なので、システムリソースに余裕があるなら利用しない手はありません。
使いやすく高機能
SnyologyのNASはファイル共有やバックアップストレージを目的に導入しているので、Virtual Machine Managerを利用する機会がありませんでしたが、Hyper-Vよりもクラスタ化が簡単で使いやすい印象があります。
仮想化技術にはホスト型とハイパーバイザー型がありますが、Synology Virtual Machine Managerは後者を採用しているので、ハードウェアリソースを効率良く使用することができるのも大きな特徴です。
ただ、機種により同時起動可能な仮想マシンの数に決まりがあるので、複数のシステムを統合する目的で利用するならハイエンドなラックマウントタイプのマシンと、有料版のライセンスを組み合わせて使う必要があります。
CPU性能が低いデスクトップタイプのNASでも、物理的な共有パソコンを仮想化したりテストマシンとして利用するレベルなら、十分に使用できるだけのパフォーマンスで動作するので、リソースに余裕があるなら積極的に活用すべきです。
セットアップ時の注意点
Synology Virtual Machine Managerは、基本的にプラスシリーズ以上のモデルで使用することができますが、仮想マシンデータはスナップショットが利用できるBtrfsのボリュームでなければ保存できません。
特に注意するのが仮想ディスクの作成で、ストレージのパフォーマンスをフルに発揮させるには、Windows PCが標準でサポートするIDEやSATAではなく、VirtIO SCSIコントローラを選択する必要があります。
WindowsはVirtIO SCSIコントローラを標準でサポートしていないので、仮想マシンにSynology_VMM_Guest_Toolをマウントし、システムセットアップ時にドライバーを読み込む必要があります。
マウントしたドライブ内にあるプログラムを実行することで、必要なドライバーをインストールすることができますが、2021年4月現在もWindows Server 2019は正式にサポートされていませんのでご注意ください。
ディスクベンチマーク
Synology Virtual Machine Managerは、仮想ディスクのコントローラーに互換性の高いIDEやSATAを設定できますが、ストレージのパフォーマンスを最大限に引き出すVirtIO SCSIコントローラーをおすすめします。
こちらの画像左は仮想ディスクコントローラーをSATAに設定した時で、右がVirtIO SCSIコントローラーにした時のベンチマークですが、一部リードが劣るもものライト性能が倍以上にまで向上しています。
今回はNAS専用HDD7本をRAID-6で構成したストレージに、仮想マシンとディスクを保存した状態でのベンチマークなので、この様なパフォーマンス結果となりましたが、SSDを搭載することで更なる高速化が望めます。
仮想化したシステムを快適に動作させるには、CPU性能やメモリ量はもちろん、高速なディスクアクセスが必要不可欠なので、VirtIO SCSIコントローラーで動作するように構成してください。
仮想化の使いどころ
Synologyの製品は、NASの世界では珍しいファイアウォール機能が利用できるので、メインのシステムをローカルネットワークに配置し、WEBやFTPを仮想化してDMZに配置する使い方ができます。
例えば、スタッフが利用するグループウェアは仮想化したWindowsのIISで運用し、外部スタッフがアクセスを行うFTPはLinuxや仮想化したDSMで公開するなど、セキュリティ要件に合わせた使い分けをすることができます。
他にもDSMのシステム更新やベータバージョンの動作検証に使用したり、ターミナル接続によるサポート外のアプリケーションインストールや、システムに関わる設定ファイルの変更に伴う作業のテストとして利用できます。
Synology Virtual Machine Managerは、Plusシリーズ以上のハイエンドモデルでしか利用できませんので、仮想環境の構築を前提にNASを購入される方は機種選びには十分ご注意ください。