QNAPのNASには、企業用のストレージとして必要な機能が盛り込まれているので、一般的なホームサーバーと比べるとストレージ設定の難易度は高いと言えます。
ただ、あまり一般的に使われることのない仕組みを全て理解する必要もなく、いくつかのポイントを抑えるだけで誰れも簡単にNASのストレージ設定することができます。
そこで今回は、QNAPのNASを初めて購入した方のために、ストレージ技術の簡単な解説やファイル共有サーバとして構成する手順などについて説明します。
ハードウェア性能世界最強クラスを誇るQNAPのNASは、企業用のファイル共有サーバはもちろん、ホームユーザ向けのマルチメディア機能を搭載しています。QNAPのNASは、ホームユーザーが利用することを想定し初期セットアップを簡素化して[…]
基本のストレージプール作成
QNAPを一般的なファイル共有サーバとして利用するなら、削除したり上書き保存したファイルの復旧を可能にする機能が使える、ストレージプールを作成してください。
ストレージループを作成するには、ストレージ&スナップショットの設定画面の右上にある作成ボタンをクリックし、新規ストレージプールをクロックしてください。
ストレージのパフォーマンス重視なら静的ボリュームを選択しても構いませんが、スナップショットが利用できないのは大きなデメリットとなるので、新規ストレージプールを選択してください。
ストレージプール | シックボリューム、シンボリューム、ブロックベースLUN作成に使用 | 基本はストレージプールを作成する |
ボリューム | 静的ボリューム、シックボリューム、シンボリューム作成に使用 | 基本はシックボリュームを作成する |
ブロックベースLUN | NASをiSCSI接続するのに使用 | ファイルベースLUNは非推奨 |
仮想JBOD | 他のNASのストレージを利用するのに使用 |
ストレージプールの作成ウィザードでは、Qtier(自動階層ストレージ)を有効化することも可能ですが、後から設定できますのでそのまま次のステップへ進んでください。
Qtierはランダムアクセスが超高速なSSDと、低速なHDDを組み合わせてストレージ化する画期的な技術ですが、SSDとHDDをそれぞれ2本以上組み合わせ使用するのがおすすめです。
HDDとSSDをそれぞれ冗長化可能な本数で利用しないと、ディスクエラーによるデーターロスのリスクが高くなるので、必ずRAID構成にすることをおすすめします。
新規に作成するストレージプールで使用するディスクをリストから必要な本数を選択し、下のリストからRAIDタイプを選択し次へボタンをクリックしてください。
ドライブベイが少ない家庭向けのNASは、ディスク2本をRAID-1構成にするケースが一般的ですが、あまり堅牢性が高いとは言えないので、必ずバックアップを取得するようにしてください。
ディスクの本数を4本以上搭載できなければ設定できませんが、家族の写真や動画などの大切なデータをより大切に保管するならRAID-6もおすすめです。
個人的な感想ですが、データー保護重視で考えるとRAID-5+ホットスペアや、RAID-10でストレージを構成するよりも、RAID-6の方が断然安心感があります。
RAIDレベル | 必要ディスク本数 | データ保護 | 用途 |
ひとつ | 1本 | ✕ | ディスク1本搭載時に利用 |
JBOD | 1本以上 | ✕ | JBODよりもRAID-0を推奨 |
RAID-0 | 2本以上 | ✕ | 高速な読み書込み |
RAID-1 | 2本 | ディスク障害1本までデータ保護 | ディスクのミラーリング |
RAID-5 | 3本以上 | ディスク障害1本までデータ保護 | RAID-1より障害リスクが高い |
RAID-6 | 4本以上 | ディスク障害2本までデータ保護 | RAID-5より障害耐性が高い |
RAID-10 | 4本以上 | ペア同時障害でデータロス | データベース向けストレージ 運の要素が強い冗長化技術 |
他にもより堅牢性が高いRAID構成はありますが、多くのディスクを使用する企業向けのバックアップストレージとして利用する物なので、ここでは説明を割愛します。
次は、SSDのオーバープロビジョンや、ストレージのアラート閾値を設定する画面ですが、今回はHDDでストレージプールを作成するので、オーバープロビジョンは使用できません。
固定領域のシックボリュームをフルで作成する際に、ストレージプールのアラート閾値が設定されていると、ボリュームに空きがあるにも関わらず警告が表示されてしまいます。
固定領域のシックボリュームで領域を作成するのであれば、アラートの閾値を無効にするのがおすすめですが、増え続けるボリューム領域のシンボリュームにするなら80%以下に設定するのがおすすめです。
ストレージプールの作成ウイザード要約画面で最終的な設定内容を確認し、問題がなければ作成ボタンをクリックしてディスクの消去を行います。
ストレージプールを作成した後は、データを保存するためのボリュームを作成する必要があるので、新規ボリュームの作成ボタンをクリックしてください。
NASをファイル共有サーバとして利用するのであれば新規ボリュームボタンをクリックしますが、PCのローカルドライブとして使うiSCSIにするなら閉じるボタンをクリックしてください。
ストレージタイプの選択
一般的にNASはネットワーク経由で共有フォルダへアクセスし、ファイルを複数のユーザーとシェアするものですが、iSCSIを利用すればPCのローカルドライブとして認識させることができます。
QNAPに限らずハイエンドなNASには、ストレージをローカルドライブとして認識させるiSCSI機能が搭載されており、サーバのバックアップストレージとして利用することもできます。
一般的な家庭や企業でNASに複数デバイスからアクセスするならボリュームを作成し、バックアップなどの専用ストレージとして利用するならiSCSI設定を利用する方法もあります。
ただし、QNAPのNASを再起動すると何故かiSCSI接続が切断されたままになり、iSCISイニシエーターで再接続する必要があるので、特別な理由がなければボリュームの作成がおすすめです。
ボリュームの作成
QNAP NASのストレージに設定するボリュームタイプには、静的ボリューム、シックボリューム、シンボリュームがありますが、一般的な使い方をするならシックボリュームを使用します。
ディスクに複数のボリュームを作成するなら、使用した分だけボリュームサイズが増えるシンボリュームの方が効率的にストレージを利用できますが、空き容量が不足するとシステムが不安定になります。
静的ボリュームではスナップショットが使えませんし、シンボリュームはディスクの容量を常に監視しなければならないので、シックボリュームを利用するのがおすすめです。
静的ボリューム | シックボリューム | シンボリューム | |
スナップショット | ✕ | 〇 | 〇 |
ボリューム拡張 | ✕ | 手動 | オンデマンド |
ブロックベースLUN | ✕ | 〇 | 〇 |
ファイルベースLUN | 〇 | 〇 | ✕ |
因みに、シックボリュームからシンボリュームへ変換したり、シンボリュームからシックボリュームへ変換可能ですが、静的ボリュームは他のボリュームへ変換することはできません。
静的ボリュームは他のボリュームタイプと比べると、約20%の高いパフォーマンスを発揮しますが、スナップショットの利用やボリュームを後から拡張することができません。
静的ボリュームは、ファイル共有サーバとして使用するのではなく、フルバックアップを頻繁に実行するバックアップストレージとして利用する以外の使い道がありません。
一般的なファイル共有でNASを利用するなら、スナップショットの作成やボリュームの拡張が行え、ストレージの容量不足でシステムが不安定にならないシックボリュームがおすすめです。
ボリュームの構成画面では、新しいボリュームの容量を割り当てたり、アイノード別バイト数を設定したり、詳細設定で暗号化することもできます。
ボリュームを最大に設定すると保証されたスナップショット領域の設定ができませんので、最大ボリュームの80%以下に設定するのをおすすめします。
アイノード別バイト数の設定により最大ボリュームサイズや、格納できるファイル/フォルダーの最大数が異なるので、用途に合わせて選択してください。
- 4Kより64Kの方が容量が少なくなる
- 4Kより64Kの方が速度が上がる
- 4Kより64Kの方が最大ボリュームサイズが大きい
- 4Kより64Kの方がファイル/フォルダの最大数が少ない
ボリュームを暗号化すると、共有フォルダのファイルアクセス速度が若干低下しますので、機密漏洩すると困るファイルを保存しないのであれば暗号化する必要はありません。
最後にボリューム作成ウィザードの要約で、ボリュームタイプやストレージ容量、選択したアイノード別バイト数などを確認し、問題がなければ完了ボタンをクリックしてください。
ボリュームの作成が完了した後は、共有フォルダ内の削除したデータや上書きしたファイルを日時指定して復元できる、保証されたスナップショット領域の作成を行います。
iSCSI LUNの作成
NASのディスクをバックサーバ専用ストレージにするなど、iSCSIは主に企業で利用することが多い機能なので、NASをファイル共有サーバとして構成する方には必要のない説明となります。
NASのストレージをローカルドライブとしてサーバやパソコンから認識させるには、ストレージ&スナップショットにあるiSCSI&ファイバーチャネルを実行します。
iSCSIストレージのタイプには、ブロックベースLUNとファイルベースLUNがありますが、一般的にはパフォーマンスや柔軟性が優れたブロックベースのiSCSI LUNを使用します。
ブロックベースLUN作成ウィザードを実行した後は、使用するストレージプールの選択とシックインスタント割当、もしくは新プロビジョニングを選択します。
シンプロビジョニングは、使用した分だけストレージ領域を消費するので効率的ではありますが、ストレージプールの空きを常に監視しなければなりません。
シンプロビジョニングを使う特別な理由がなければ、NASシステムを安定的に動作させるために、シックインスタント割り当てを選択するのをおすすめします。
次はブロックベースLUNの設定ですが、保証されたスナップショット領域を作成するために、LUN容量を後から拡張するのがおすすめなので、そのままの設定にします。
詳細設定を開くことでセクタサイズを512バイトからWindows用に4KBへ変更できますが、オペレーティングシステムがサポートしていなければ利用できませんので注意してください。
ブロックベースLUNの作成ウィザード要約画面で諸々の設定を確認し、すぐにマッピングするのであれば現時点では「ターゲットにマッピングをしない」のチェックを外します。
機種によるのかもしれませんが、今回の検証に使用した機種のiSCSIマッピングは最大1個となりますので、ブロックベースLUNを複数作成する場合は注意が必要です。
ブロックベースのiSCSIを複数作成した場合は、使用するiSCSI LUNを切り替える必要があるのと、接続先でiSCSIイニシエーターの設定が必要になります。
ブロックベースiSCSI LUNを作成した後は、保証されたスナップショットを設定することもできるので、写真やドキュメントなどを保存するストレージとして利用する場合は必ず設定してください。
保証されたスナップショットの作成
ボリュームやブロックベースiSCSI LUNを作成した後は、削除したデータや上書き保存したファイルの復元を可能にする、ほしょうされたスナップショットの作成をおすすめします。
スナップショット画面が表示されない場合は、ストレージプールの管理画面にあるアクションから、保証されたスナップ領域の有効化を実行してください。
スナップショットの一覧に表示されるストレージプールを選択し、保証されたスナップ領域ボタンをクリック後、構成ボタンを押して設定画面に進んでください。
スナップショット機能を有効にするとディスクのパフォーマンスが若干低下しますが、上書き保存や削除したデータを管理画面にログインせずに復元できる便利な機能なので必ず設定してください。
ストレージプール領域に空きがなければ、保証されたスナップショット領域を設定できませんので、まずは少ない容量でボリュームを作成し、スナップショット領域の設定した後に拡張するのがおすすめです。
スナップショットの設定が完了すればストレージの設定は完了となりますので、定期的にスナップショットを取得するようにスケジュールの設定を必ずしてください。
ストレージ設定まとめ
以上がQNAPのストレージ設定の解説となりますが、一般的なファイル共有サーバとしてNASを構成するなら、まずはストレージプールを作成しシックボリュームを作成してください。
ストレージプールのアラート閾値は無効にし、ウィザードそのままの容量でボリュームを作成し、保証されたスナップショット領域を作成後、ボリュームを最大まで拡張するとスムーズです。
- ステップ1:ストレージプールを作成(アラート閾値は無効に)
- ステップ2:シンボリュームを作成(少ない容量で)
- 保証されたスナップショット領域を作成する
- シンボリュームの容量を最大まで拡張する
ストレージ構成を適切にしないとデータ消失のリスクに対応できないばかりか、NASのシステムその物が不安定な動作になるので、最初の設定はとても重要になります。
バックアップは必須
ディスクの冗長化、ホットスペア、レプリケーション、スナップショットなどの機能は、大切なデータを守るとても便利な機能ですが、バックアップにはなりませんので過信してはいけません。
RAID構成したストレージが故障してデータが消えたり、ファームウェアの不具合でサーバ製品に搭載したSSDのデータが消滅したりと、復旧困難なトラブルが起きる可能性があります。
NASの空きドライブベイや外付けHDDを利用して、定期的にバックアップを取得することで、大切な思い出の写真や動画、ビジネス文書が救われます。
NASの導入は費用がかかるのでバックアップは後回しにしたくなるものですが、そこにはお金では買えない大切なデータがあることを忘れないでください。
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