長年NAS世界の王者としてQNAPの製品が君臨してきましたが、ここ数年はハードウェア性能だけが高く評価されるだけで、管理画面やスマートフォンアプリの操作性、機能の作り込みで言えばSynologyの方が優れています。
逆に言うと製品サイクルが長いSynologyのNASは、QNAPにハードウェア性能で大きな差を付けられていましたが、2020年後半にかけて相次いで製品をリニューアルしハイエンド志向のユーザが納得できる製品がいくつか登場しました。
どちらのメーカーも高機能で安定動作するので甲乙つけ難いものがありますが、使用する目的や好みで選ぶべき製品が異なりますので、今回は2021年に買うべき最強のNASに選び方について解説します。
10Gbps時代到来
スマートフォンで撮影した写真やフルHD動画をNASに保存して再生するだけなら1Gbpsネットワークでも十分ですが、4K動画の再生や編集を行うユーザは低速なネットワークにストレスを感じてしまいます。
ネットワーク速度を10Gbpsにしたところで、SATA規格のディスクを搭載しているNASを利用するしている限り、論理上6Gbpsの速度を越えることはありませんが、作業効率は各段に向上します。
例えば、1Gbpsネットワークで10TBの容量をバックアップすると丸二日かかるのが、2Gbpsのスループットに向上するだけで半分の一日でジョブが終了するので、データ保護計画が練りやすくなります。
確かに今までの100Mbpsネットワークと比べると1Gbpsネットワークは10倍なので高速に感じるかもしれませんが、10GbpsのUSB3.1 Gen2の1/10の速度しかでないので、超高速なファイルアクセスには向いていません。
1Gbpsの低速なネットワークでは、Youtube用に撮影した動画をNASに保存したまま編集することもできませんし、4K・8K放送のテレビ番組の再生でコマ落ちする可能性があるので、これからは10Gbpsネットワーク対応は必須と言えます。
標準で10Gbpsネットワークが搭載されているモデルは多くありませんが、ハイエンドなNASにはPCI Express拡張スロットの搭載が可能な製品があるので、ハードウェア仕様の確認はとても大切なことです。
メモリ増設は必須
SynologyやQNAPなどのハイエンドなNASは、仮想化サービスをインストールしてサーバOSを起動したり、仮想サイトを追加して複数のWebサイトを公開するなど、昔のデータ保存だけが目的の製品とは別次元の使い方ができます。
エントリーユーザーの向けの製品に搭載されているメモリは容量が少ない上に、交換したり増設して増やすことができませんので、多人数で同時にアクセスするのが苦手で複数のサービスを起動させると動作が遅くなります。
一般的な家庭向けのホームサーバであれば、メモリが少なくて動作に多少影響したとしても安ければ気になりませんが、企業向けの用途やNASの機能を使い倒したいハイエンド志向なユーザーはストレスになります。
スマートフォンで再生するのが難しい高解像度の動画を最適化したり、NASに保存した写真をインデックス化したり自動分類するにもメモリの量が多い方が捗るので、拡張可能なモデルを選ぶのがおすすめです。
コストを抑えるためにシステム導入時にメモリを増設する必要はありませんが、NASは長く利用する物だけに企業向けの用途やハイエンド志向のユーザなら、後から追加できる拡張可能なモデルを選ぶことを強くおすすめします。
SSDを意識したモデル
SSDが登場した当時の価格を考えると随分安く手に入れやすくなりましたが、大容量のNAS専用HDDと比べてるとやはり高価で、4TBでもエンタープライズモデルのハードディスク以上の価格になります
例えば、中規模以上の企業やデータセンターで使用することを想定にした、エンタープライズ向けのSeagate EXOSが16TBで約55,000円なのに対し、ミドルクラスのWD Red SSD 4TBが68,000円です。
ストレージ容量が2TBか多くても4TBで足りる場合や予算に余裕がある人なら、小型でSSDに特化した2.5インチドライブベイのNASでも構いませんが、今のタイミングで購入でする方は真のハイエンド志向のユーザだけではないでしょうか。
今後数年でSSDの容量も各段に増えて価格の低価格化が進むかもしれませんが、今後はM.2 NVMe SSDが主流になる可能性もありますし、予想できない未来のことに期待するよりも、汎用性が高い3.5インチドライブベイ対応製品がおすすめです。
機能選びが一番重要
ハードウェア次世代規格に対応していてパフォーマンスが優れていても、NASを利用する目的に合う機能がなければ意味がないので、製品選びをする時はメーカーの特長を把握することが大切になります。
単純に写真や動画を保存したりテレビ番組を録画するだけなら一般的な家庭向けのNASでも十分ですが、SynologyやQNAPのハイエンドなメーカーの製品には、最先端なストレージ技術やバックアップソフトが盛り込まれています。
例えば、QNAPにはSSDとHDDを組み合わせて超高速なデータアクセスを実現する最先端のストレージ技術Qtierがありますし、Synologyにはクライアントやサーバのバックアップを集中管理するActive Backup for Businessがあります。
どちらのメーカーの製品も頑丈で安定動作するので甲乙つけるのはナンセンスですが、高性能なハードウェアで高速なストレージ技術を体験したいのであればQNAPで、高い品質とバックアップデータを集中管理するならSynologyがおすすめです。
他にも、ひと昔前のNASならパソコンから共有フォルダにアクセスしてデータを保存したり、テレビ番組を録画するためだけの物でしたが、Synologyなら音楽・写真・動画を再生するのはもちろん、チャットをしたりドキュメントを作成することもできます。
一般的な企業や家庭ならローカルネットワーク専用の独自チャットアプリを使うメリットはありませんが、情報漏洩を徹底的に排除したい企業や多人数が集まる大学の議論で使うなど、有効な使い方を考えられると人には便利です。
スマートフォン対応
SynologyやQNAPなど高機能なNASは、スマートフォンにインストールするアプリが充実しているのも大きな特徴のひとつで、撮影した写真や映像を簡単にアップロードしたり再生してコンテンツを楽しむことができます。
どちらのメーカーもスマートフォンアプリが充実しているので気軽にNASが使えて便利ですが、ホームサーバとしての使い勝手の良さやソフトウェアの品質を比べるとSynologyの方が優れています。
基本的に使うのは写真、動画、音楽の再生アプリが中心なので、どちらのメーカーの製品を選んでも後悔することはありませんが、ホームサーバとして使うなら使いやすくて品質が高いSynologyの方がおすすめです。
スマートフォンやタブレットでNASにアクセスするには無線LANが必要になりますが、旧規格の11gや11nでは動画再生でストレスを感じるので、最低でも11acに対応したアクセスポイントと端末をご利用ください。
ディスク未搭載がおすすめ
家電量販店には予めハードディスクが搭載されているNASが売られていますが、品質が悪いストレージが搭載されていると、データ消失のリスクが高くなるので未搭載モデルをおすすめします。
特に気を付けなければならないのが、大容量でありながら低価格で販売されているSMR仕様のハードディスクで、基本Raid構成で運用するNASには向いていないので注意しなければなりません。
複数のメーカーからSMRのNAS専用ディスクが発売されていますが、特に多いのが家庭向けに使われる低容量のHDDなので、製品を購入する際には仕様がCMR形式なのか確認してからにしてください。
最近のハイエンドなNASには、M.2 NVMe SSDを搭載して高速キャッシュに設定が可能な機種がありますが、キャッシュは気休め程度の効果しかないので無理して利用する必要はありません。
低コストで超高速なディスクアクセスを実現したいのであれば高速キャッシュを設定するよりも、データの一時保存先としてSSDを使用するQtierの方が断然効果がありますが、これはQNAPの製品だけが使える機能です。
必要なドライブベイ数
一般的な家庭で使用しているNASで、テレビ録画専用なら1ドライブタイプで写真や動画を保存する使い方なら2ドライブタイプを使うのが一般的ですが、データ保護を最重要に考えるのなら4ドライブベイ以上がおすすめです。
コストパフォーマンスを最重要視するならRAID1になりますが、大切なデータを理想的に残したいのであればRAID6がおすすめで、RAID10は運の要素が強いのでデータ保護には向いていません。
RAID6は最低でもディスクを4本搭載する必要があるので多くのコストがかかりますが、同時に2本のストレージが故障してもデータを守ることができるので、リビルド中の障害発生にも対応することができます。
ディスクの本数が多くなるだけ故障のリスクが高くなるのは間違いありませんが、今までの経験上同時に故障するのは2本までですし、大手メーカーも大切なデータを保存するならRAID6を推奨しています。
イニシャルコストの問題で4本以上のディスクを用意するのが難しいなら、最初はRAID1+バックアップ用に3本のディスクを購入し、数年後にディスクを追加すれば後からRAID6にマイグレーションさせることもできます。
高性能で荒削りなQNAP
QNAPは新しい規格のハードウェアを積極的に採用する傾向が強く、それだけに新製品が登場するサイクルが非常に早くなるので、他社と比べて全般的にパフォーマンスが優れているのが特長です。
特に注目すべき点は、ホームサーバとして使われることが多いミドルレンジクラスのモデルでも拡張スロットが使えるので、2ドライブベイのNASでありながら10Gbpsネットワークに対応させることができることです。
ハイエンドなNASとして人気が高いSynologyの製品でも10Gbpsネットワークに対応させるには、最低でも6ドライブベイのDS1621+以上を購入する必要があるので、それだけイニシャルコストがかかります。
QNAPのNASは管理画面や設定画面の操作は難易度が高く一部の機能は雑な動作をするので、初めてNASを導入される方にはおすすめしませんが、実績があるメーカーの製品なだけに安定性は抜群なのでファイル共有に最適です。
因みに、QNAPのNASを使えばWordPressでWebサイトを構築できますが、SSL証明書の設定が難しくWebサービスのバージョンが古いままで、ファイアウォール機能もないので、インターネット上に公開するのはおすすめしません。
高い品質と充実した機能のSynology
今まで国内外様々なメーカーのNASを導入してきましたが、SynologyのNASは大企業で使えるだけの機能がありながら、比較的初心者にもわかりやすい操作性なので安心して使用することができます。
ただ、SynologyのNASは製品クラスの違いで使える機能が違うので、SSDを搭載したり仮想OSを動かしたりバックアップを集中管理するなど、制限を気にすることなく自由に使いたければ機種選びが重要になります。
ファイル共有するだけならエントリ―クラスのモデルでも十分に安定して動作しますが、低価格なモデルはCPU性能が低くメモリもかなり少ないので、ハイエンド志向のユーザや企業用途には向いていません。
ハイエンド志向でなくても使いたい機能と言えば、ストレージのスナップショットやSSD Trimですが、Jシリーズなどのホームサーバクラスの製品では使うことができないので、予算に余裕があるのなら避けてください。
今後普及が予想される10Gbpsネットワークへの対応を考えると、ハイエンド志向のユーザーにはPlusシリーズ以上がおすすめですが、一部拡張スロットが使えない製品もあるので注意が必要です。
おすすめは2021年に買うべきハイエンドNAS候補のひとつSynology DS1621+で、CPUがIntel ATOMからAMD Ryzen V1500Bに変更されているだけでなく、10Gbpsネットワークにも対応させることができます。
SynologyのNASは機能や品質は申し分ないのですが、ハードウェア性能は次世代機と言い難い物がありQNAPに後れを取りましたが、DS1621+の登場によりハイエンドな使い方ができるようになりました。
DS1621+はビジネス用途でも十分に使えるだけの性能がありますが、ワンランク上のクラスには、Intel Xeon D-1527を搭載したDS1621xs+がありますので、よりシビアな使い方をする方にはこちらのモデルをおすすめします。
【NASキット】Synology DiskStation DS1621+ [6ベイ / クアッドコアCPU搭載 / 4GBメモリ搭載] 大容量6ベイ...
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