SynologyやQNAPのハイエンドなNASには、HDDよりもランダムアクセスが高速なSSDを搭載してストレージにしたり、データアクセス速度を向上させるキャッシュとして利用できる製品があります。
時々スマホで撮影した写真や動画を保存したり、テレビ番組を録画するだけならHDDで十分ですが、頻繁に細かなファイルを読み書きするヘビーユーザーはSSDを搭載した方がストレスになりません。
NASに搭載されているネットワークがUSB3.2 Gen1よりも低速な1Gbpsでは、SSD本来の性能をフルに発揮することはできませんが、ファイルサイズが小さな写真やドキュメントの書き込みが大幅に改善されます。
SSD Trim対応は必須
NASにSSDを搭載するにはTrim機能が必要不可欠ですが、一般的な家庭向けのモデルにはこの機能が使えない物ばかりなので、SynologyやQNAPなどの高機能なメーカーの製品がおすすめです。
ただ、高機能なメーカーの製品でも、エントリーモデルはTrim機能が使えないように制限されているので、NASにSSDを搭載するならTrim対応の製品をお求めください。
ただ、注意してもらいたいのがSSDをキャッシュとして利用した場合、期待する程のパフォーマンス向上は見込めないので、貴重なドライブベイを消費してまで有効にする必要はありません。
もし容量が少ないSSDを使用してNASのデータアクセスを改善したいと思うなら、HDDとSSDを組み合わせてストレージ構築が可能なQNAPの製品をお求めください。
QNAPのQtierを使うには、ストレージ領域として利用するHDDの他に、2.5インチSSDのドライブベイやM.2 SSDのスロットが必要になるので、エントリーモデルでは利用ができません。
かなり荒削りなQNAPのNASは、高い品質の機能を求める人には向いていませんが、個人向けでも10Gbpsネットワークに対応させることができるモデルもあるので、ハイエンド志向のユーザーに人気です。
検証に使用したNAS
今回検証で使用したNASはSynology DS918+で、3.5インチもしくは2.5インチのディスク4本と、底面のスロットにキャッシュ専用M.2(Type2280)SSDを2本搭載可能なハイエンド向けの製品です。
SynologyのエントリーモデルはTrim機能が使えませんが、ハイエンドな部類のDS918+はSSDを搭載してストレージとして利用したり、キャッシュとして設定することもできます。
DS918+本体底面に搭載可能なM.2 SSD(Type2280) は、キャッシュ専用なのでデータの保存に利用できない上に、SSD1本では読み込み専用キャッシュとなります。
読み書き可能なSSDキャッシュを利用する場合、破損したキャッシュデータが書き込まれないようにRAID-1構成にする必要があるので、必然とM.2(Type2280)のSSDが2本必要となります。
今回の検証で使用しているSSDは古くて容量が少ない物ばかりですが、それでもHDDよりは高いベンチマークの結果が出るはずですし、ファイルアクセスも体感できるくらい早くなるはずです。
ストレージマネージャーのデバイス一覧に、Intelの256GB NVMe SSDが表示されていますが、今回はSATA接続のSSDをストレージとして利用した場合のパフォーマンス検証なので、キャッシュは無効にしています。
ベンチマーク結果
ここからが本題となりますが、HDDよりも高速なランダムアクセスが得意なSSDをNASに搭載した場合、どれくらい高速になるのかNAS専用HDDと比較しながら検証してみました。
まずは、NAS用HDDで人気のWestern Digital REDをシングルストレージとしてSynology NASに設定し、ベンチマークソフトで速度を計測した結果がこちらとなります。
続いては、NASにintel SSDSC28W180H6を搭載してベンチマークソフトで計測した結果がこちらで、4K Q32T1と4Kはパフォーマンスが向上しましたが、その他は全く変化がありません。
HDDよりもデータアクセスが速いSSDなのにパフォーマン結果に大きな変化がないのは、NASに搭載されているネットワークの通信速度に原因があります。
ハイエンドなNAS Synology ds918には、1Gbpsのネットワークアダプターが搭載されていますが、それでは6GbpsのSATA HDDの性能も満足に引き出すことができません。
仮に超高速なM.2 NVMe SSDをストレージにしたとしても、ネットワーク速度以上のデータアクセスはできないので、NASにSSDを搭載する前に通信環境を整備する必要があります。
因みに、PCI-Express対応の高速なM.2 SSDをキャッシュ設定して結果は同じで、例えNASのディスクを高速化してもネットワークスピードを底上げしなければ、HDDを搭載したストレージと大差ありません。
高速ネットワークが鍵
Synologyには、10Gbpsネットワークカードを拡張スロットに増設したり標準で搭載しているモデルがあるのですが、試しにベンチマークでパフォーマンスを計測したところ少しだけパフォーマンスが向上しました。
ベンチマーク結果の228.0MB/sをbpsに換算すると1Gbps以上の速度が出ていることになりますが、それでもSSDの性能をフルに発揮しているとは言えません。
更に、10GbpsのLANに対応したDS1817をサーバとダイレクトにCAT7ケーブルで接続し、ファイルをNASにコピーしたところ3.4Gbpsまで速度が出ましたが、それでも十分な速度とは言えません。
NASにSSDを搭載し10Gbpsネットワークで接続しても本来のスピードを発揮しないのは、アクセスするクライアント側にも原因があるので、双方の環境を高速化する必要があります。
因みに、M.2 NVMe SSDを搭載した2台のパソコンを10Gbpsネットワークで接続し、ファイルコピーをした時のスループットを計測してみたところ10Gbps限界までパフォーマンスを発揮できるのを確認しました。
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NASにSSDを搭載する意味
NASにSSDを搭載したとしても、ネットワークスピードやクライアントのストレージ速度次第では、性能をフルに発揮できないことがあるのは、ベンチマークの結果からみてもわかります。
そう考えるとテレビ番組の録画や写真を保存するためのNASに、SSDを搭載して高速化する意味はないのかもしれませんが、写真や動画を再生するまでの時間を縮管したり管理画面を快適に操作することくらいならできます。
他にSSDをNASに搭載する有効な理由があるとするならば、モーターなどの駆動部品を使うHDDよりもSSDの方が製品寿命が長いので、大切なデータをより安全に保管したい時くらいです。
今後大容量SSDの価格が下落すれば別ですが、NASのストレージにコストをかけるよりも、将来のことを考えて10Gbpsネットワークに対応可能な製品や、ドライブベイ数がより多い製品の購入をおすすめします。
一般家庭で使うためのサーバにNAS専用HDDを搭載する必要がないという意見もありますが、それは全くの嘘ではないかもしれませんが、とても正解だとは言えません。個人よりも企業で使うNASの方が、データアクセスする頻度や保存するデータ量が[…]